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死ぬまで、やります

小説002 / 二話

駅前で路上ライブを行う少年がいた。

 

-さよならって言えたなら、少しは楽になったかな。

 

音楽とは素晴らしいものだ。

言葉にしただけなら、ただ恥ずかしくなるものでも音に乗せて歌えば伝えられる気がする。とは言っても、ぼくには音楽の才能はなかったからもうギター弾くことはないだろうし、自分の気持ちを人の歌で代弁してもらおうなんて思わない。自分の気持ちを歌っている歌を探して出して、つたえたい相手にプレゼント、なんてつまらない人間のやる事だ。

 

だからこそ、自分で歌を作って誰かに歌える人はとても魅力的で、とても悔しく思う。

 

/

 

ただ生きているだけで時が過ぎて、今年で二十七歳になる。

果たして、今日は仕事帰りに友達と飲んだのだけれど、解散してから今まで何をしていたのか思い出せないが、時刻は深夜二時を回っていた。

去年に越してきたアパートの玄関のドアの鍵穴は錆びていて、開けるのにはちょっとしたコツが必要だ。酔った頭ではうまく開けられない。

そうして手間取っていると、隣の部屋から一人の女性が出てきた。

 

「……大丈夫ですか?」

 

こんな時間に鍵穴に苦戦していたからだろう、十センチほど開けたドアの隙間から不審そうな顔でそう言った。

「ああ、すみません。こんな時間に、迷惑でしたよね」

精一杯の社交的な、けれど申し訳ないというニュアンスの表情を作り、彼女にとって謝る。

「いえ、この時間は起きてるので、大丈夫です。そっちのドアも、鍵が開きにくいんですね」

彼女はそう言って微笑んだ。ドアの隙間は変わらないから、警戒は解いてないのだろう。

その後、それじゃ、おやすみなさい。と言って彼女は部屋に戻っていった。

そうこうしながら、やっと開いた扉から部屋に入り、すぐにベッドに仰向けになる。

 

考えてみたら、隣人の顔を初めて見た。

築何年経ったかも分からないほどのアパートに、ぼくと年齢の近い人が住んでいることは知っていた。

隣の部屋からは、若い異性の性行為の切れ端の様な声が聞こえてくる。

ぼくは、女の方に様子を伺わせんなよ、と思い、それもまあぼくには関係ないと結論づけて、眠りに落ちた。