Artical-s Blog.

家賃3.8万円

死ぬまで、やります

seek me(私を求めて)

seek meという、新潟で活動しているバンドがいる。

初めて見てから時間が経ったけど、最近になってから印象が変わった。

明るくパンクな音楽をしているけど、十代が終わる事を惜しむような寂しさと言うか、影の一面もあるバンドだなって思うようになった。

 

最近は本当に良くって、毎回の曲で聞こえてくる歌に感動を覚えるまでになった。

最近は忙しいけど、対バンじゃなくても是非に観に行きたい。

 

みんなも見に行こう、本当に良いんだよ、彼ら。

 

最初の印象というか、初めて対バンする前にバンド関係者から聞いていた話は「暴れてライブハウスの壁に穴を開けた高校生バンド」だったから、トゲのある人たちなのかと、勝手な想像をしていた。

 

実際に会ってみると、良い人たちだった。

 

なんなら、俺のバンドのメンバーの楽器ケースやエフェクターケースにseek meのパスが貼ってある。

 

求めちまってたんだなあ、なんてな。

 

 

閑話休題

 

 

世の中はコロナウイルスの話題で持ちきりだけど、俺の生活は変わらない。

 

強いて言えば、Twitterのタイムラインがウイルスに侵されたように、その文字をたくさん見るようになった。

 

何を言っても燃え上がる火種になる話題で、自分如きじゃ何を言っても話題にならないと思い、でも誰かから何かを言われるのが怖いから、静観を決め込む。

 

流行病への捉え方は人それぞれだから、みんな総じて誰かの反感を持つような意見を持ってると思う。

 

まあ、何が言いたいかというと、体調は崩さないほうがいいってこと、それだけっす。

それは寒い日の朝

触発されて書く。


寒くなった。


まあ、書いたところで読むのは、つっくん、きなり君、よしきくらいかな(もしかしたら、しゅんちゃんと、ゆーとも)


そう考えれば、不特定多数に向けて公開されるブログなのに、内輪向けみたいな気分の内容になるか。


名前を出してしまう時点で、リテラシーを考えろと言われてしまいそうなので、全国のつっくん、きなり君、よしき(もしかしたら、しゅんちゃんと、ゆーと) に向けて書いたことにする。


最近は、一ヶ月に一度くらいのペースで体を壊していて、みんなのおれの印象そのままであろう体調を保ってるけど冗談じゃ無い。

ここまで体調を崩すのは珍しい。


まあ、そんな体ぶっ壊しな日々だけど、月にライブは五本くらいしてる。

いつまでこんな生活ができるのか分からないけど、まあ、いけるとこまでやる。


何か、目標があれば、もう少し変わるだろうかね。



PS.中山、阪神、中京の開幕週は負けました。

小説002 / 七話

投稿した後、これと言ってやる事もなかったので友達の家に遊びに行くことにした。僕の家から徒歩十分の位置にあるけれど、歩くのは面倒なので原付で向かう。晴れた六月の気候はとても過しやすく、このまま夏が来なければ良いのに、と思う。もしくは夏を無視して冬になれば良い。雪は積もるけれど、あの空気は生きている感覚を僕に与えてくれる。

なんて、つまらないことを考えているうちに、7階建てのアパートに着く。

この前、一緒に飲んでいたあいつが住むこのアパートは周りに比べて(もちろん、僕の住むところよりも、ずっと)新しく見える。あいつと飲む時の代金は全て僕が払っている。なぜなら、ニートだからだ。働く気が無いのだ。それなのに、僕よりもお金持ちだ。

 

最高か。良いなー。

 

/

 

原付を駐輪場に置き、インターホンを鳴らす。

僕のアパートよりもずっと高性能なこのアパートのインターホンは、中の人間の顔を見ながら話せる素晴らしい仕様になっている。つまりテレビ電話機能つきインターホンなのだけれど、果たしてそれは、呼び鈴のみの家とどれだけ防犯上で違いがあるのかは分からない。

呼び鈴と覗き穴と、少しだけ開けて会話ができる程度のチェーンがあればこと足りる気がする。ここに住む人の大半は選ぶ際にそれが決め手になったわけではないだろうし、あれば便利くらいのものなのだろうか。しかしまあ、世間が必要だと感じて作られたものだろうし、僕が何を思ったところで、必要性はあるのだろう。

ほどなくして、少し憂いのある女性の顔が画面に映った

「ああ、今、行く」

僕の顔を見るなりそう言い、すぐに映像は切られた。

 

/

 

真っ黒な髪に真っ黒な目、色白な肌。身長は僕より十五センチ程低く、体重は分からないが平均よりは低い。声は低く、たまに何を言ってるか分からない。これは二つの意味で、上手く聞き取れない時と、僕の理解が及ばないことを独り言のようにいう時とがある。

見た目に関して言葉で言えば一般的な日本人のそれだが、大学時代には女生徒は強制参加のミスコンのグランプリ、(本人曰く)仲も大して良くない同級生に勝手に応募されたアイドルで選ばれた期待の星(結局、本人の意思ではないからとアイドルにはならなかった)。

頭は大して良くないという評価で大学は終えたが、テストの勉強をしなければ点数は取れないというだけで、知力は高いと思う。

それに、豪運。そして、酒豪。

これが僕が彼女、綾瀬史乃その人の評価。

 

「何がしたくて、生きてるのかな?」

彼女は僕を部屋に迎え入れ、僕の分だけの冷たいコーヒーを出すと、すぐにパソコン居室にある向かい、画面を見ながら呟いた。そこは彼女のいつもの過ごす場所で、もうずっと使われているだろうその椅子からは軋む音さえ聞こえてこない。見た目もさる事ながら、機能も良いようでよっぽど良い椅子なのだろうと思う。

「しかけが、遅すぎる」

そう言った彼女が見ていたのは競馬の実況で、1レース目だと実況から分かった。

競馬の実況見ながらなぜ生きているのかを問いかけるアイドルなんていないだろうから、彼女にアイドルは無理だっただろう。

「負けた?」

「あーいや、負けてはないけど、ワイド一点。四着の馬が着てれば三単。カスだね」

負けていなければ良いんじゃないかと僕は思いつつ、コーヒーを啜る。

「ねえ、史乃」

僕が声をかけると、史乃はパソコンの画面から目を逸らさずに「何?」と応じた。

「Arkってアプリ知ってる?」

彼女は興味の無さそうに「知ってるよ、あれでしょ、出会い系もどき」と答えた。

「らしいね、出会い系みたいなやつ。暇すぎてさ、始めたんだ。でも何が目的か分からなくて。出会いが目的なのかな、やっぱり」

史乃には興味がないだろうと思って、軽い気持ちで言ったの。けれど、彼女は首だけ僕の方を見て、

「やめたほうがいいよ、きっと」

と冷たく言った。

 

 

/

 

 

その後、僕らは他愛のない会話(最近の僕の仕事ぶりや、共通の友達の近状、最近のアニメ読んだ本の話)をして、夕方にインスタントラーメンを出してもらい、二人で食べて互いの暇潰しを終えた。

史乃がArkについてやめたほうがいいと言った理由に特に深い意味はなく、ただ時間の無駄だから、との事らしい。

僕にとっては、彼女と過ごす今日みたいな時間も、Arkのようなアプリで費やす時間も、大元のところは変わらない、とは言わなかった。言う必要がないし、失礼なだけだからだ。言っても何も得るものがないと分かっているなら、言わない。言いたくなっても、だ。これは僕なりの処世術。

 

明日は仕事だから、自宅に着いてからはシャワーを浴びて、少しだけウィスキーを飲んで、布団に潜った。

今日は悪くない日だったと思う。

明日もきっと、変わらない。

小説002 / 六話

参加のボタンを押すと、現在の参加予定者の数と名前が表示された。

ハンドルネームはそれぞれBrooklyn、向陽、撃鉄丸、エアコン、そして僕こと三八〇の5名だ。性別は分からないけれど、名前のセンスからは全員が男性な気がした。

 

次に掲示板をのぞいてみる。

それぞれ、ピンごとに掲示板が設置されるらしく、三日後のこの位置の掲示板では一週間ほど前から書き込みがあった。

 

 

2019年 6月2日 15時32分

エアコン「こんばんは! 家が近いので参加してみます! 今回は何か起きるのでしょうかね? 面白い事があるといいけど」

 

2019年 6月2日 17時35分

撃鉄丸「初めて参加します。撃鉄丸です。まとめブログから来ました。こうゆうネットのイベント参加した事がないので、一応参加ボタン押したけど、参加しないかも

気が向いたら行ってみます」

 

2019年 6月4日 21時10分

向陽「俺、一ヶ月くらい前に少し離れたところに行ってみたけどなんもおこらなかったな。このアプリ、話題にはなってるけど、ネタなのかもね、まあまた行ってみるけど」

 

2019年 6月4日 23時56分

エアコン「@向陽 私も三回くらい参加したけどなにも起きなかった……だからこの前は参加者でファミレス行ってご飯食べてきました。もしかしたら出会い系的な使い方なのかもね、これ」

 

2019年 6月7日 16時3分

向陽「ニュースサイトで知ったんだけど、このアプリのピン位置で爆発事故があったらしいね。なんでも、ドラム缶が爆発したんだって。

誰かが事前に用意して爆発させたのかな。やっぱネタアプリ? ってか、みなさん、危ないことはしないように」

 

2019年 6月8日 21時32分

エアコン「ですね。集まった人が何か起こすのが趣旨なのかな? まあ、目的も説明もないから分かんないですよね、まあ盛り上がっているうちは楽しむかな〜」

 

Brooklynという人からの書き込みは無く、撃鉄丸からの書き込みもそれ以降は見られない。

僕も一応、参加の表明をしておこうと思い、書き込む。

 

2019年 6月9日 15時00分

三八〇「初めて参加します、三八〇です、仕事帰りに寄ってみるつもりです、よろしくお願いします」

 

それだけ書いて、投稿する。

前の投稿を見る限り、この投稿に対しレスは付かなそうだけれど、実際に顔を合わせる前に一言あったほうが話しやすい気がする。まあ、本当に行くかどうかはまだ決めかねているのだが。

小説002 / 五話

あくまでぼくは一般的な会社の勤め人なので、お金にならない事だけに時間を割くなんてできない。

だけれど、あくまで一般的な勤め人らしく、暇な時間も作れたりするし、言ってしまえば何かアクションを起こそうとしない限り予定は埋まらない。

 

何もない休日がやってきた。

特にすることも無いので、溜まった洗濯物を洗った後、昼食をとりつつArkを起動する。

GPSの使用許可を求められた以外には自分の情報を求められる事も特になかった。

ニックネームだけは必要で、深く考えず年収を漢数字にし、三八〇と入力すると

「thank you My Friend . Welcome New World!」

と表示され、なんだかよくわからないが歓迎してくれているようだ。

次に、ぼくの携帯の位置情報を中心として、三十キロ圏内のマップが表示された。

マップ上には何個か黄色いピンが刺さっていて、右上のメニューマークをタッチすると自分の情報、書き込み履歴、地名の検索、設定の変更と表示されるようだ。使い方の説明は、探しても見当たらない。

 

仕方がないので、適当に使ってみる事にした。

 

取り敢えず現在地から一番近い黄色いピンをタッチすると、そのピンから吹き出し口が表示され、住所と日付と時刻が表示された。他にも参加の有無の選択、掲示板への書き込みが出来るようだ。

日付は三日後で、時刻も仕事帰りに駅から歩いて寄れる位置にあるけれど、なにが起こるかも分からないのに参加を表明できない……とは思っても、どうせニックネームしか登録していないのだし、ぼく個人として誰かの評価を下げる事もないだろう。

 

参加する事にしておいて、気が向いたら行けばいい。

ぼくはそう軽く考え、参加のボタンを押した。

 

 

 

 

小説003 / 三話


いつの間にか、空を見ていた。
前日の雨に打たれた公園の地面はぬかるんでいて、彼女から借りた服が土によって汚れている。
隣を見ると、高校生の彼も仰向けに大の字になって空を仰いでいる。
彼はいつの間にかブレザーを脱ぎ捨ていた。
「あんたも、俺とおんなじじゃ、ないですか……」
「いやまあ、俺だって、君の初手が来るまでその確信はなかったよ……しかし、まあ、久しぶりに、全力出したわ、ほんと……」
僕たちは、喧嘩をした。
とはいうものの、僕たちに目立った外傷はない。確かに、喧嘩の最中にバランスを崩して倒れた時や、殴られた時の衝撃を殺し切れずに木に受身を取った時についた傷はあるけれど、しかし、直に殴られた傷はない。
そもそも僕たち天秤症候群は、医学的にその存在を認められているわけじゃない。
運動行動として出す結果が人よりも著しく強いだけで、人としての構造が同じである以上、あまりにも強い力で殴られれば、その部分は死んでしまう。
僕たちは、互いの拳を受け止めるか、交わすかで喧嘩をし続け、その体力が尽き、仰向けになっている。

僕は、視線を空に戻し、隣の彼に問いかける。
「なあ、君は、君が、学校の球技大会を休んだ理由……つーか、今日って、球技大会だよね?」
僕は、ほとんどうろ覚えと推測で言った言葉の確証を得ていなかった事を思い出し、彼に問うと「ええ、そうですよ」と言った。
「ああ、そうか。うん。君が球技大会にさ、出ない理由はやっぱり、力の発現が強いから、だろう?」
「……はい」
と、彼は僕を向きながら、言う。
その顔は、ただ動く何かをただ見ている表情ではなく、人を見るときの人の顔だった。
こうしてみると、可愛らしい顔をしている。僕に男色の気はないが。
「分かるよ……俺もそうだったから。力のセーブが出来ないんだろう? いや、できるかもしれないけれど、できるかもしれないって不確かな気持ちで生きるのは、辛い。すごく、分かる……」
僕は、落ち着き始めた肺から、酸素を絞り出し彼に伝える。
「君が、さ。もし自分の力をセーブしたいのなら、さ。俺が普通の頭のおかしい人間だと思っている時に向けていたあの目……あれを、やめることだ。もし、周りの人……同級生や生活上ですれ違う人に向けているとするなら、絶対にやめるべきだ。
そうしなきゃ、君は力を抑えられない」
そういう僕に、意外そうな顔をする。
意味がわからない、と言いたいのかもしれない。だから、僕は行動にうつす。
「僕の手を、握ってみてくれよ」
と、左手を差し出す。
握手ならば右手を差し出したいのだけれど、僕たちは仰向けになっていたから、僕の左側に位置する彼に手を差し伸べるためには左手を出すしかない。
彼は僕の意図がわからないようだったけれど、右手を差し出し、僕の手を握る。ぼくはそいつを握り返す。
「ほら、ね?」
優しく絡まった手を持ち上げて、僕はいう。そして、その意図が分かったのだろう、彼は少し驚いた顔をした。
「君は僕を、対等であると認識しているから、僕の手を握ることに、その価値の分だけの力を込めている。それ以上でもなく、それ以下でもない」
僕が浮かせた手の力を抜くと、彼の手はゆっくりと地面に吸い込まれた。
僕はそれを見ながら、伝え続ける。
「僕たちは、どんな人間とも対等だ。それは医学的にも認められているし、社会的にも然りだ。まあ、認められているっていうにはあまりにも不平等かもしれないけれどね。だから、僕たちは普通に生きている事を自覚して、周りも対等だと認識すること。それが、力をセーブする方法」
僕は、彼に微笑んでみせる。
彼は、ぼくをみて、少しだけ悲しそうな顔をした。
「でも、それは、辛い」
そう、彼は呟いた。
「ああ。辛いだろうね。だって、彼らを自分と対等だと見れば、そいつらが言うこともまた、対等な立場からの発言になる。君も、散々言われてきたんだろう? 色々とさ。周りの誹謗や中傷を同じ人間として受ければ、君は傷つくし、時には怒るだろう。怒り殴れば、人とは変わらないけど、あまりにも違いすぎる僕たちはその人を傷つけるだろう。僕たちが周りからの悪意を意に返さない一番楽な方法は、人としてみないことだ。けれどね、人としてみない以上、僕たちは人に対し「普通に」触れることなんてできない。僕たちが及ぼす影響を、その未来を想像できない。想像できないのは、怖い。人としてみないくせに、その人が壊れることが、怖い……言い方悪くなって、ごめんね」
僕は矢つぎ早に伝えた言葉が、彼を傷つけていないか心配になり、付け足す。それを聞いた彼は笑った。
「なんだ、優しいんですね。さっきはすげえ馬鹿にしてきたくせに」
「……さっきは悪かった。あれは、僕の好奇心で、君を怒らせたかった。君は……僕に似ていたから」
「似ていた?」
「うん。僕も、球技大会の日、同じようにここに座っていたから」
そういうと彼は、少し意外そうな顔をした。
「貴方も、力がセーブできなかった時があるんですね」
「さも意外そうに言うけど、当然のようにセーブできなかったよ」
過去を思い出しながら、僕は自身の体験を伝える。
「それで、見学扱いでも良いからさぼらずに出席していれば体育の補講を受けずに済んだのに、僕は途中からここにきて、体育の補講を受けて、そこでも参加できずに保健室に行って、そこで偶然いた相談員の人に助けられて、いま大学に通っているよ」
その人と共に、ね。とは、言わなかった。
個人的なことは、それだけにしておこう。
「君は、球技大会を抜け出たわけだけど、補講は大丈夫? 何とかなりそう?」
そういう僕に、彼は自然な笑顔で答えた。
「いえ、今日以外の体育の授業は全て出ていますし、これから休まなければ、補講を受けずに済みます」
そして、僕たちはそれきり会話が止まり、しばらくの間人目もはばからず、空を見上げる。
何分か経った後、この地域特有の市民館のスピーカーから流れる「十二時のチャイム」が聞こえてきた。僕たちはそれを合図に、立ち上がる。
「帰ろうか」
僕はいい、
「はい。今日は、ありがとうございます」
と、彼は右手を差し出す。
僕は「さっきは逆の手だったからね」と笑いながら応じて「じゃあね」と伝えた。
彼は、「本当にありがとうございました。惚れちゃいそうです」と、微笑んだ。

 

「ホモなのかもしれない?」
今日は白米、味噌汁、目玉焼き、ひじきという朝食で、一昨日の話を終える頃には二人ともそれらを食べ終え、食器も洗って片付けすら終わってしまっていた。
「っていうか、君もまた物好きだね……優しさと同義だけど、しかし同意ではないよ? まあいいけど。でもさ、君はその子を男の子として見ていたようだけど、本当にその子は男の子かい? 男の子であるという、または女の子でないという確証がないうちに、その子を男の子として受け入れ、ホモだと断定するに早いよ……」
彼女は呆れた風にいう。
「でも、どちらにせよ、今まで誰かと触れる事を拒んだ人間が、いきなり喧嘩をして、その上に優しく手を触れ合ったりすれば、その衝撃はかなり大きいものだろうね。確かに、恋に落ちるかもしれない。まあ、そんなことになったら楽しい楽しい私の嫌がらせが始まるだろうけどね、柊君?」

小説003 / 二話

普段の生活で、塀を飛び越え、知らぬ人が住む家の屋根を伝い、風を切りながら空を駆ける、何てことはしない。
あくまで僕は、一般市民として生活をしている。
体を使えばその分、対価として寿命が減るかもしれない、という臆病な恐怖があるのも否定はできないけれど、しかし、それ以外にも理由はある。
姉貴に叱られるからだ。
その理由は「普通の人としてあってほしい」からだそうだけれど、僕がどれだけ僕の力を使おうとも、僕は医療機関にも社会制度にも認められた人であることには変わりがないのだから、その意味を理解できない。
けれど、姉貴に叱られるのは嫌なので、僕は真っ当であることを選ぶ。
その理由が、僕の納得する理由であるならば、僕はそれを普通の人並の力しか出さない理由の一つにできるのだけれど、残念ながら姉貴が好きであるということと、その言葉を自分のものにするのは別問題だ。

他称天才少女の家を一緒に出て、彼女が駅に向けて走り出した後、僕はそれを背にして、近くの公園まで歩き出す。
いつのまにか雨は止み、水溜りが陽の光を反射している。
彼女と別れた後、もう一度彼女の家に戻ろうかと思ったけれど、しかしそれは無粋だとも思い、彼女を追いかけて駅に行っても大学に行く用事はないし、家に帰っても本を読んで過ごすだけなので、僕はなんとなく、今日の過ごし方を考えるためにという理由をつけて、彼女から借りたライターを持って僕と彼女の家の中間地点にある公園に向かうことにした。

学校のある日、駅に向かうために公園の横を通り過ぎる必要がある。
行きつけって訳ではないけれど、ほとんど毎日のように通ればさほど広くはないこの公園の何処に何があるのかなんて、把握しようともせずに知れている。
その、いつも通りの公園の、いつもは誰も座っていないベンチの上に、人の姿が見える。
その横に僕の御目当ての灰皿が置いてあるのだけれど、しかしどうして、平日の昼間、他に誰もいないこの状況下で、その人影はそこにいるのだろう。
遠くからスーツを着たサラリーマンが煙草でも吹かしているのかな、と思ったけれど、近寄って見て気がつく。上着はスーツではなく、紺色のブレザーで、左胸には校章が貼られている。
彼はどこかの遠くの方をぼうっと見つめていたが、近づいて立ち止まった僕の姿に気がつき、顔をこちらに向ける。
その表情はどこか険しいが、そのあどけなさの残る顔を見て、僕は確信する。
彼は、高校生だ。
そして高校生らしく、煙草を吹かしているわけではない。真っ当な高校生でしかない。
制服を着ているのだし、今日はきっと、彼の在籍する学校はお休みではないのだろう、しかし、サボってここにきている。
そう見当をつけるけれど、僕だってそんなことくらい、日常茶飯事だった。他人である僕が咎めることも無いだろう。
こちらを見続けている彼に、僕は尋ねる。
「煙草を、吸ってもいいかい?」
彼はなぜそんなことを聞くのだろう? という表情をした後、右手を灰皿の方に向けて、
「どうぞ」
と、言った。
「どうも」
と言い、僕は煙草に火を付ける。
彼女の家で吸うこともできるのだけれど、しかし彼女は喫煙者ではない。
その家で、なぜか用意されている灰皿を使うのは気がひけるので、僕はいつも、我慢している。
一日ぶりに加えた煙草の煙を肺に入れ、口から吐き出す。とても、美味しい。最高だよラッキーストライク。僕は隣に座る彼に気がつかれないように、表情を緩ませる。

彼は僕が二本の煙草を吸い終えるまで、そこに座り続けていた。
一番最初の会話以外、僕たちの視線が交差することも、言葉が飛び交うこともなかったけれど、しかし彼はそこに居た。
三本連続で煙草を吸うのはやめておこうと思い、僕はパーカーのポケットにそれらを仕舞う。
そのまま家に帰って本の続きを読もうかと思ったけれど、不意に気がつく。
ベンチに座っていた彼が、僕のことを見ていた。
けれど、その口元が動くことはない。その目は、なんだか気だるげそうだ。まるで人を見ている表情ではない。
ただ動いている生き物を、ただ見ている風。
僕はその表情を見て、彼に俄然興味が湧いてきた。
「なにか、僕に、用事でも?」
まるで彼が喧嘩を売り、そして僕がそれを買う、そんな構図だけれど、彼は別に喧嘩を売っている訳ではないらしく、首を振った。
「いえ、何でもないです。……すみません、不躾に見てしまって」
「いや、大丈夫だよ、いや……大丈夫じゃあないかもね? 君は高校生だよね? 平日の昼間に、制服で、こんな所にいて良いの?」
と、僕はまるでお節介な大人のように彼に問う。
「ああ。学校は、さぼりです。親に見つかったら、怒られるでしょうね。けれどまあ、大丈夫ですよ。怒られても、構わない」
本当に構わないのだろう。罪悪感も、恐怖感も含ませず、ただ単調に彼は言う。
「ちなみにさ。今日は何かをイベントでもあったの? そのブレザーの下、ジャージだよね? 僕が高校生の時は、ブレザーの下はワイシャツだと相場が決まっていたけど、今はそんな風習、廃れたってわけ?」
彼はその質問に、少し呆気になり、そして、今までの会話の中で初めて、苛立ちを含めて僕を見た。
「あーまあ、そんなところです。ブレザー着て学校行って、帰りは脱いでジャージで良くない遊び、みたいな、そんなのが流行ってるんです」
彼は面倒くさくなったのだろう、あからさまな嘘を言う。だから僕も、そのあからさまな嘘を、掘り下げてやることにした。
「なるほどね……。ん? いや、少し待ってよ。いや実はね、僕も昔は君と同じ高校だったんだけれどね? まあ、もしかしたら校則も今じゃあ変わってしまってるかもしれないけど、僕が在学していた時は、そもそも学校に制服を着て行く必要はなくて、普通に普遍に私服が許されていたと思うんだよ。いや今は分からないけれどね? 分からないさ。確かに制服も存在していたから、もしかしたら制服着用遵守になっているのかも? ……仮に校則が変わらず今も私服登校が許されるならさ、別に良くない遊びのためにジャージを着込む必要はないんだよねー。いや、君のことを疑ってる訳じゃないよ? でも君の格好ってちぐはくだよねー。ジャージの上に制服。なのに君は、運動靴を履いている。制服着用を義務付けながら靴はその限りではないってのも、おかしい話だよね?」
まあ、制服着用が義務ならば、良くない遊びのためにジャージを着込むというのも分かる気がするけど、しかし、やはり、校則に変わりはないはずだ。
その根拠はたまに彼女から聞く愚痴にある。何せ彼女は、そこの学校の非常勤講師で、僕が出会ったのはその生徒だったからだ。
彼は、しばらく呆気にとらわれていたが、面倒な奴に絡まれたと思い至ったのだろう。僕から視線を外し、膝に手を付き立ち上がり、僕に背を向け歩き出そうとする。
「無視かい? まあ、良いさ。別にいいけどね、嘘をつかれた人間として、糾弾させてくれよ。君が嘘をついたのは二つ。制服の下にジャージを着ている理由がよくない遊びのためってことと……」
僕は、声に笑いを含ませて言う。
「親に怒られても構わない。ってことだね?」
その声に、彼は、僕に背を向けたまま立ち止まる。
その肩は震えていないけれど果たして、その顔は分からない。しかし、容易に想像がつく。
僕はそれでも、続ける。
以前、確固とした彼への興味を持って。
「そんでね、話している間に思い出したんだよ。そういや、この時期だよね、球技大会ってさ? いや、今日というこの日こそがそうなのかな? 確か、見学者はジャージの上にブレザーを羽織るってのを義務付けられていたはずなんだけれど、そうだよね? だから、君は、その格好なんだよね? 君は見学者のくせに、サボっているから、その格好なんだろう? いや、サボるために見学者なのかな? どっちでもいいけどさ、一つ言いたいことがある」
そして、僕は、少しタメを含み、今度は平坦な声で、明らかな差別用語を唱える。

「君ってもしかして『テンビー』だったりする?」

そして、彼は、その言葉を聞き、振り向き、僕の方を睨みつける。
まるで「散々学校でも言われているその言葉を、外でも聞かなきゃいけないなんて」みたいな、理不尽に対する子供の感情のような、そんな顔を僕に向ける。

「テンビー?」

僕はもう一度いう。
僕も散々に言われてきた言葉を、僕の好奇心で彼を傷つけようとも、僕は言う。

テンビー。

馬鹿っぽいその言葉は僕たちへの侮蔑用語で、社会的にはしっかりとした名称がある。
天秤症候群。
それが、僕たち「人ならざる身体能力を持つ人間」に付けられた二つ目の名前だ。
天秤にかけているのは、片方に身体能力。そして、もう片方に、それ以外のその人の全てだ。
社会は「身体能力と寿命をかけているため」という。つまり、身体能力が重すぎて、寿命が軽くなっている、つまり早く死ぬ。それが、この現象の理由だ。
それ以外に、理由はない。
とは言うのも、もし仮に「常人より著しく筋力が強いため、体力の消費量がまた、常人よりも多く、早く死ぬ傾向がある」といった、この現象の確固とした理由が見つけられているのであれば、これは現象とは呼ばれず症状と呼ばれ、また天秤なんて言葉は使われず、たとえに則るなら「筋力馬鹿病」みたいなネーミングとなるだろう。
しかし、そうならない。なってはくれないのは、ただ、身体能力が著しく高く、そのため、早死にする傾向がある。というその事実のみしか明らかになっていないからだ。僕たちの体内構造は常人と一緒だし、これといった精神的な疾患も見受けられない。確かに蔑まれ、人として扱われないと嘆き鬱になる人は多いと聞くが、それは環境因子による発病が多い。天秤症候群とは、なんら関係がないといわれている。

だからこそ、僕たちは、蔑まれる。
結果として身体能力が高いというだけで、その理由だけで僕たちは避けられる存在となる。
僕はもう、テンビーなんて、言われても何も思わないようにできるけれど、しかし、一つだけ許せないことがある。
僕にとってはそうであるけれど、未だに対峙する彼にとってはどうか、分からない。
けれど、そうであるかもしれない以上、僕は彼に言ってみる価値がある。

「いやね? テンビーってさ、人よりもすげえ身体能力が高いらしいから、同じ人を見るときの顔がまるで、違う生き物を見るような表情らしいって聞いたんだ。そう、さっきまでの君の顔だよ。今は殺すぞゴキブリ野郎、みたいな顔をしているけどね。それで、僕は君がテンビーだと思ったんだ。そしてね、君が家族に怒られるのを、構わないって言ったことを嘘だと思ったのは、最初から見学するつもりなら、運動靴を履いて学校に行くとは思えないんだよね。でも、君は現に靴を履いている。それは、誰かに、ジャージを着て靴を履いて家を出る姿を見せなきゃならなかったんじゃない? それに、聞いたことがあるんだよ」
聞いたこともない事を、僕は言う。

「テンビーってさ、家族好きで有名じゃん。
ああ、かわいそうに。
人じゃないくせに、人が好きなんて。

その家族が、かわいそうだよ」

僕も、いつか、そう思っていた。
家族がかわいそうだと。
姉貴がかわいそうだと。

けれど、人から言われるのと、自身を客観的にみて悲観してそう思うのはわけが違う。
僕は、明確に、彼の家族を馬鹿にしている。


彼が僕に拳を構える。
踏みとどまるのは当然だ。
身体能力が人よりも高いなら、その力で人を殴れば、人よりも強く傷つける。

だけれども、僕は殴られて当然なことを言っている。
そして、殴られても、大丈夫。
彼の力が見てみたい。
天秤症候群は、案外、同じ症候群者に出会えない。

僕は、同じ悩みを抱えていたことがある。
同じように、僕はこの日、ベンチに座っていたのだから、僕にはそれがわかる。
僕の過去を見ているようだ。
だから、興味がある。
彼の未来に。
同じテンビーだろうが、彼と僕は違うから。

だから、確実に拳が出るまであと一歩、その手を引いてやる。

「ああ、かわいそうだ。
人なのに、人じゃない子を産んだ親がさ。
いや……もしかして決めつけてたけど、
君はもしかして、
人かい? それとも、テンビー?」

社会的な人だけれど、
日常での扱いは人じゃない。
僕たちは日常を生きている。
だから、売られた喧嘩の答えは、

「人じゃねえから殴っても良い」