僕は泥棒 中
三コーナーを過ぎたあたりからズルズルと馬群に乗れていった賭けていた馬は目も当てられない着順となってしまい、僕は負けてしまった。
まだ、資金は残り半分あるし元より賭けるつもりだった次のレースで取り返してみせると心に誓った僕は、パドックを見に行くために歩き始める。
ふと気がつくと、パドックの馬たちを見る客の中に、明らかに周りから浮いている少女がいた。
眼帯、ゴスロリ、ふわふわの黒い髪。
ファッションに興味ないと自分でいう奴の大半は、自分の見た目に何か言われようとも気にしない。
けれど他の誰かが不思議な格好をしていると、蔑んだり好奇に駆られ囃し立てる。
ファッションに興味がないわけではなくて、自分が格好良いと思った服を周囲に認められないのが怖くて、無個性を演じようとしているだけ、というのが僕の持論だ。
本当にファッションに興味がない人間と言い切るには、周りのそういった空気は気にすれど、その人の評価には何ら関係を及ばさない思考をしていなくてはならない。
まあ、僕は普通に周りから格好良く思われたいのでちゃんと服を選んで着ている。
そして、ゴスロリ少女にも俄然興味がある。
ゴスロリには興味はないが、そんな格好をして競馬場に来ているその心理を知りたい。
服とは、興味を持たれるための手段なのだ。
「一番の馬に単勝で全額賭けます。勝ったら、俺と一緒に遊びに行きましょう」